Little DJ 小さな恋

う〜んと前や少し前に若かった人におすすめ



  

昨年の春先。ラジオでこの映画の原作のことを聴き、すぐに買った(もちろん新刊で)。
ちょうど、所用で広島へ行くときだったので、レイルスターに乗り込むとすぐに読み始めた...。尾道か三原のあたりではもう佳境に入っていて、流れ出る涙を拭うことすら出来なかった(お恥ずかしい話しですが)。ボクが本を買ったときには、その帯には「映画化決定」と記されていて、そしていよいよ公開される。
正直云って、映画化にはあまり期待していなかった。お涙ものだし、変にドラマチックに仕上げてあっても興醒めするだけかもしれない。しかも、邦画だしなぁ。べたっとした仕上がりになっていなければいいんだけど...。

スクリーンは博多駅の近くにあるシネ・リーブル博多駅。この日が初日だというのに、ボクが観た夕方遅くに始まる回は10名程度。う〜む、淋しすぎるぞ。

純粋さっていいな。
ボクがそれを失ってから、もう何年が過ぎているのだろう。もう、自分にも純粋だった頃があったとは信じられない(もともと純粋さの欠片さえ持ち合わせていなかったかもしれないけど)。夢や希望に対して、人生に対して、異性や恋に対しての純粋さ。

ある日、元気だった少年が野球の試合中に倒れてしまう。たまたま具合が悪かっただけだと思っていた。ただその後も頻繁に倒れるようになり、一度詳しく調べてもらうと...。その少年高野太郎(神木隆之介)はそのまま入院することになってしまう。
太郎はふとしたきっかけでで知り合った院長先生のすすめもあって、病院内のお昼の放送を担当することになる。そして、この番組のDJをすることが、この少年の生きがいになっていく。

太郎は、病院での生活の中でさまざまなことを学ぶ。それらの中には、ひょっとしたら学校の教室では習わないことや何年もかかってやっとわかることも多く含まれていた。病院は様々な人生が、濃厚にいろんなふうに交錯する場所なんだ。
そして、太郎はひとつ年上の少女・海乃たまき(福田麻由子)に恋をする。その恋は幼くてピュアな恋。ある意味、すれっからしのボクには眩しすぎる。

その人生が幸せだったのか、充実していたのか、価値がある人生だったのか、それはその人生の長さで決まるものではない。コツコツと積み上げていく人生もあれば、一瞬を太く駆け抜けていく人生もある。
だけど、せめてもう少しこの少年の声と笑顔を聞いて見ていたかった。

神木隆之介と福田麻由子はボクはこの映画で初めて会ったけど、透明感があるのびのびとした演技で、少年らしく少女らしく純粋さを上手く出してくれていた。特に福田麻由子が良かった。期待していなかっただけに、ちびっとびっくりした。(その後、神木隆之介とは「お父さんのバックドロップ」で遭遇していたことがわかった)
院長先生の原田芳雄も違和感が無いわけではないけれど、まず良かった。でも、広末涼子はどうだったのかな。もう少し繊細さや線の細さが欲しかったような気もします。
もうひとつ思ったのは「最近の若い人たちにDJとはどういう存在なんだろう?」ということ。受験勉強や宿題をすると称しながら深夜ラジオに耳を傾けて、心をときめかす若い人はもういないのではないのかな。それとも、そんなことはないのかな?
いみじくも、広末良子の番組にはリクエストのハガキは一枚もやって来ない...。ラジオというメディアやDJという存在、もう若者のハートを捕まえられないものになってしまっているような気がします。それはそれで淋しいね。
ひょっとしたら「世界の中心で愛を叫ぶ」(カセットテープ)や「僕の、世界の中心は、君だ。」(ポケベル)のように、う〜んと前や少し前に若かった人が“懐かしむ”、そんなノスタルジーに浸るタイプの作品なのかもしれません。
まずまずのオススメだと思います。この映画も紹介するのが遅れた割には、まだ上映しているスクリーンもあるようなので、チャンスがあればどうぞ。

おしまい