最遥遠的距離/The Most Distant Course/遠い道のり

人は旅に出るものだ。



  

スマートさはないけれど、どこか夢のような...。そんなはかない思いをスケッチしたいいお話し。

台北の街角。
マンションの一室。
彼女はやりきれない思いを抱いたままウイスキーをあおる。満たされない気持ちが画面を覆う。
翌朝、郵便受けに自分宛ではない封筒が入っているのをみつける。そうだ、彼女はこの部屋に引越してきたばかりなのだ。管理人のおばさんに聞いてみるけれど、前の住民の転居先はわからないと云う。そのままにしておいても良かったのだけど、彼女はその封筒を開け、カセットテープが中に入っているのを知る。ラベルには“fomosa”と書かれていた。
仕事帰り、彼女はカセットが聞けるウォークマンを買う...。

汗臭い男の一人住まい。ふと目を覚ませた男は自分がとんでもないミスを犯したのを知る。機材を片手に慌てて現場に駆けつけるが、そこにはもうすでに自分の仕事は無かった。別の録音技師が彼の場所に座っている。
仕事を失った男は、録音機材を担いでクルマに投げ込むと、旅に出る。台湾を録ろう...と。

脂臭い男の顔がアップ。カウンセリングをしているのか。医者なのか(ほんまか?)。一転して、怪しいホテルの一室。先ほどの暑苦しい顔をした男、女性を連れ込んでいる。今度はマンションの一室、一人で寝ているこの男が目覚める。悪くない生活を送っているのがわかるが、無頓着でありながら一人暮らしの侘びしさが色濃く漂う(ネクタイの臭いをかぐなょ!)。
やがて、何となくこの男の輪郭がわかる。そして、このお医者さん、ある日、全てを放り投げて旅に出る。暑苦しい顔をして、思い切ったことするなぁ、このおっさん。

こんな三人、交差しそうで交差しない。
年齢も職業も生活もポジションも、全てが違う三人。
でも、やがてこの三本の糸が一点に向かって行く。

ありそうだけどない。
別に甘いだけのロマンチックなお話しではない。何かを失った者に共通する思いを重ね合わせながら、でも時にはコケティッシュにストーリーは進んでいく。
満たされない思い。
お互いがそれを補完するわけでもない。そんなことは有り得ない。

調べてみると、東京国際映画祭で上映された作品のようですね。今回は変則的な上映。油麻地の百老匯電影中心で22時過ぎから一度のみの上映。ここはちびっと変わっていて、映画館の横が映画の資料館と映画関係の書籍やグッズ・DVD・CDが売られているショップになっている(喫茶店にもなっている)。シネコンなどで大々的に公開されるのではないような作品が上映されているようですね(湾仔にあって今はもうない「影藝戯院」の受け皿になっているのかな?)。
今回は主演の男の子(モーズーイー)が舞台挨拶に来ていて、上映後に観客とディスカッションをしていました(グイルンメイちゃんなら良かったのに...)。そのせいか大きくないスクリーンでしたが、チケットは売切れになっていました。ボクは幸いにも前売りでちゃんとチケットを買えました(graceさん情報ありがとうございました!)。

主演の三人がいいのはもちろんなんだけど、出色の出来は、誰が観てもあの怪しい先生(ジアシャオグオ)。彼の存在抜きにはこの作品は語れないし、若い二人だけでは薄っぺらい、どこにでもあるようなお話しになっていた。

別に結論がどうのこうのではないし、ハッピーエンドでもない。そんなものは用意されていない。そんなものは必要ない。
人は旅に出るものだ。何かを求めて、全てを捨ててもでも出かける旅がある。それに気が付けた人は幸せなんだな...。
いやいや、青春を振り返るおっさんだからこそ美しいのかもしれない。もし、青春真っ只中であれば、却って青臭くて観ていられないのかもしれないな...。

不思議なことに、字幕は無かったのに、ほとんど不自由に感じなかった(漢字の字幕があったからかな?)。でも、出来れば日本語字幕でもう一度拝見したいですね。そんなチャンスあるかな?
まずまずのおすすめ。悩める青春を送っている人たちに観てもらいたいです。

おしまい。