やわらかい手

イリーナ・パームへ行くしかあるまい!



  

東京に出張が決まると大きめの書店さんへ行って「ぴあ」の関東版を買うのがボクのひそかなお楽しみ。ページを繰って「どんな映画やってるかなぁ...」これが、まぁ至福のひと時であるわけです。そして、その「ぴあ」を羽田空港の出発ロビーで捨てる時、ボクの東京出張はおしまいの一区切り。
今回はもうとっくに上映が終了していると諦めていた「呉清源 極みの棋譜」が、モーニングのみだったけどまだ上映されていたので、これはすぐに決定。他には何にしようかと調べてこの「やわらかい手」と「迷子の警察音楽隊」に決める。映画の内容ももちろんだけど、ハシゴ出来るスケジュール、上映館の位置関係も大切。
渋谷のBunkamuraルシネマってどういうものなのかな。上質のヨーロッパ映画が上映されることが多く、それも割りと長い期間上映される。ただ、大衆的な雰囲気はなくて、やや「お高くとまっている」という印象は拭えない。どんな作品のときでもおばさま方のお客さまが多いのが特徴かな。シートは悪くないけれど、傾斜がかなり緩くて、はっきり云って前の人のアタマがかなり気になる。ガラガラならいざ知らず、平日でもそこそこの集客があるスクリーンだけに、この点は改善してもらいたい。ベストは最後列で、この列だけ少し高くなっているので満席でも前の方が気になりません。だから、なるべく早く劇場に着いて整理券の番号を貰うことが必要ですね。

ミキことミキ・マノイロヴィッチが秀逸。
このアダルトショップのボス。憂いを抱えた表情にくわえ煙草、そしてことあるごとにスコッチをストレートであおる。自分の仕事、自分の価値観に頑固。だけど、ストレートな感情の吐露もあり、なんだか憧れる。なれることなら、こんなおっさんになりたい!

一見、キワモノ風のストーリー。

だけど、この映画で描かれるお話しは普遍的(?)な家族愛。
マギーの家族の中で欠落しているマギーの旦那の役をミキが肩代わりしているのかな。この旦那は亡くなっていて、一度も姿は現さないのだけれど、語られるストーリーからは、近所の奥さんと浮気をして、ルン銃の間際にその事実を奥さんに話してしまうという、かなり間抜けだけど、自分では愛情深いと錯覚してるかなり困った男であったように思える(それもまた、彼の魅力だったのかな?)。
いつも斜に構えて、いつまでもお嬢さん気分が抜けない息子のお嫁さん・サラ(シボーン・ヒューレット)とは、お世辞にも嫁姑の仲が上手くいっているとは思えない。それに輪をかけて息子のトム(ケヴィン・ビショップ)が、苦悩はしているものの頼りにならない。いや、この息子夫婦、精神的にもかなり疲弊しているんだろうなぁ...、きっと。
そんな息子夫婦の間に生まれた孫が先天的な重病に犯され、6週間以内にオーストラリアで治療と手術を受けないと危険だと宣言される...。それまでの入院費用などで既に財布は空っぽ、治療費や渡航費を捻出する当てもない...。

銀行も相手にしてくれない、手っ取り早くまとまった金を稼ぐ手段は残されているのか?

人生は何があるかわからない、とはこの映画を観ていても思わない。でも、ひょっとしたらあるかもしれないなと思わせる、ウソのつき方の上手さがある。郊外に住むマギーを取り巻く奥様連中や、商売にさといミキを含む業界内部の争奪戦、そしてあくまでも純なオリー(孫)の存在、マギーの手ほどきをしてくれる先輩役のルイーザのサイドストーリーなど、脇が真面目に作られているだけに、観る側をぐいぐい引っ張って行く力がある。

面白さとは、マギーのゴットハンドだろう。彼女が“ペニス肘”という病気(?)になるのにはかなり笑える。それよりも、ボクとしては、ミキの店にやって来て並んでいる男たちの姿の滑稽さを覚える。何もこの手の店に出かけることを笑っているのではなく、幾らゴッドハンドとは云え、あの環境で列を成すことに。ボクならちょっと照れてお互いの顔がわかるところには並べないなきっと。誰か知っている人と出会ってしまったらどないすんねん!

マギーことマリアンヌ・フェイスフルが往年の名女優だったとは知らなかった。どうりで、あんな貫禄と上手さがあったのか!

ひょっとしたら、あらすじをチラ見して敬遠してしまった方も少なくないかもしれません。でも、やらしい部分なんて微塵もなくて(いや、微塵くらいだけならあるかな?)、とってもいいお話しなので、今からでも遅くない。上映は終わっているけど、DVDやビデオでご覧になっても充分楽しめてご満足いただける一作だと思います。

よっしゃ、今から手拭いで頬っかむりしてソーホーのミキの店に並びに行くぞ〜!

おしまい。