家守綺譚

梨木香歩 新潮文庫 ISBN:4101253374



  

先日から風邪で具合が良くなかった。そんな時に書店さんでヒラで積まれている新刊の文庫を何冊か買った。そんなまとめ買いでストレス発散(?)を狙ったわけだ(効果はなかったけど)。この本はそれ以前に気が付いて、一度手に取ったものの、そのまま戻した。帯が気になっていたのね。
そして、読む順番が回ってきた。

日常の延長上には様々なものが隠れていて、その隠れているものに気が付くのかそれとも見逃してしまうか、その差は大きいのだなと思った。とにかく静かでありながら、フィクションでありながら、読む人の心を静かにほぐしてくれる。ひょっとしたら拙宅の狭い庭にもそんなものが隠れているのではないかと思ってしまう。案外、人生の起伏ってこんなものの連続なのかもしれないと思う。そして、今まで実に自分が何も気が付かないまま無為に日々を過ごしてきてしまったのかと、深く反省してしまうのだ。
もし、この疎水の流れが一部流れ込む山科(?)のふもとにあるお屋敷にボクが住んでいたとしたら...。ボクの鈍い感受性では何に出会うことも出来ず、サルスベリに惚れられることもなく、そして犬のゴローは縄でつないでおいてしまうんだろうな。確かに読んでも毒にもクスリにもならない種類のお話しだけど、この征四郎の世界にちょっぴりでも浸っていたいと思えるのだから、まだ可能性はあるかもしれないけど...。
読了後、続きとは言わないけど、このお話しの中に挿入できるかもしれない一遍を書いてみたい(考えてみたい)と生意気にも思ったのは、ご愛嬌か。そんな何気なさがこのお話しの真骨頂だと思った。

実は梨木香歩という作者の本。随分と前、何冊かなっちゃんから借りっ放しになっていて、手も付けていなかった。しまった、もう少し早く出会っておくべき作家だったかもしれない。先日、もう一冊「西の魔女が死んだ」(これはBOOKOFFで100円で買った)も入手しているので楽しみ。
読みながらすぐに頭の中に浮かんだのが川上弘美。この人も、実生活のことを書きながらプイっと違和感なく異次元に飛んでいってしまうようなお話しが得意だ。ちょっと趣味が違うけど畠中恵もそんなところがあるなぁ。これって直前に「日中2000年の不理解」なんて本を読んでいたから余計にそう思うのでしょう。

イラっとした時、こころがささくれだっている時、そんな時に読むのに向いていると思う。束もないから、人にも安心してオススメできるな。でもひょっとしたら「わけがわからない」人もいるかもしれないね。

おしまい。