「魚味礼讃」

関谷文吉 中公文庫 781円


  

小学生の頃から家のどこかに釣竿があった。特に本格的に釣にのめり込むことはなかったが、フナ釣に行ったり、堤防からアジを釣ったりしていた。帰省すると丹後の海でキスや小魚を釣っていた。
本格的に始めたのは勤めだしてからで、当時の一月分の給料をつぎ込んでフライフィッシングの道具を一式揃えた。何度か北海道へその道具片手に出掛けたもんだ(もっとも、餌釣用の道具も持っていたが...)。
そして、今日「加太の釣師」として名人への道を着々と歩んでいる人と船釣に行くようになり、ここ数年では「釣りへ行く」とは「加太に真鯛を釣りに行く」こととなった。もっとも、最近では年に何度も釣行はしないのだけど...。

書店さんの文庫新刊コーナーに平積みされていたこの本をある意味時間潰しのために買った。東京の浅草で四代続く老舗のすし屋さんの若き四代目が、魚の味について書いた本だ。

著者の関谷さんがこの本で言いたいのは以下の5点だ。
一つ、魚には「旬」があり、その旬に食べるべきだ。二つ、魚には美味しい大きさが決まっていて、その大きさの魚を食べるべきだ。三つ、もう一つ大事なのはその魚の産地だ。そして、四つ目は、美味しい魚を食べようと思ったら、それなりの出費が必要だ。最後に(ほんとは最初に書いてあるが)、味わうという行為は五感を鋭くして感じるものであり、口や舌だけで味わうものではない、特に大切なのはその「香り」だと力説されている。

この本を読んでいて、つくづく知らされるのは、日本で美味しい魚を食べるのは「とっても難しい」ということだ。特に、庶民には本当に美味しい魚は廻ってこない仕組みになっていることがよくわかった。この本では紹介されていないが、美味しい旬の魚をボクが手軽に食べられるのはサンマぐらいかもしれない。ある意味読んでいて嫌になる。幻滅する。

この本を読み進めていくうちに正直言って、感心するよりも、ちょっと嫌味が鼻についた。それだけ美味しい魚とは手の届かないところを泳いでいるんだなぁ(淋しい)。

せいぜい、年に数度行く加太で釣ったタイは味わって食べることにしよう!

おしまい