梅蘭芳/Forever Enthralled/花の生涯−梅蘭芳

余少群の突き刺さる視線がいい!



  

香港の電車やバスにはモニターが付いていて、広告媒体であるのだけど、ニュースのVTRがどんどん流されている。そこで目に入ったのが、この映画「梅蘭芳/Forever Enthralled」の公開を前にしての記者会見。陳凱歌のインタビューや予告編が繰り返し流されていて「こんな映画がもうすぐ公開されるんやなぁ...」という程度の気持ちでそのモニターを見つめていたのだけど...。

ホテルに戻りネットで映画館の検索をしていたら、ラッキーなことに油麻地の百老匯電影中心で先行上映をしている(本来は1月1日公開)。よっしゃ!とばっかりに、この長尺の作品のチケットを買いました(もちろん、作品名と上映時間を書いたメモを渡すだけ)。
ほぼ満席なものの、上映が始まってもざわめきが残り、館内はどうも落ち着かない雰囲気。

大きく別けて三つのエピソードからなる。
まず、実力を認められて頭角を現す梅蘭芳が、叔父でもあり師匠でもある役者を乗り越えるまでのエピソード(+役者の社会的地位の向上)。
二つ目は、行き詰まった梅蘭芳が出会った新派(?)の女性役者と出会い、共演するうちに恋に落ちるエピソード(+ニューヨークをはじめ海外公演の成功に至るまで)。
そして、最後が日中戦争下での梅蘭芳。梅蘭芳と日本の情報将校との関係が描かれています。
また、ある意味鍵を握る二人のパトロンについてもかなりシーンが割かれていますが、こちらはボクの語学力の問題もあって、もうひとつ役回りが良く理解できなかったのが残念でした。

およそ2時間半の上映時間で、レオンライやチャンツィイーなどのキャストはもちろん、時代考証もそうだし、スタジオも背景にもたっぷりお金と時間が費やされているのは間違いない。従ってこの作品はいわゆる“大作”の範疇に入る。
だけど、ボクにはどこか“上ッ滑り”しているように感じられて仕方ない。細かいお話しを詰め込みすぎて話しそのものに核となるものが無かったのではないでしょうか。

ボクは京劇には不案内で、梅蘭芳がどんな人物なのかよく知らない(ひょっとしたら、そのことが致命傷になっているのかもしれないけど)。
だからこそ、梅蘭芳その人にもっと絞るのか、それとも、彼が演じた芝居をじっくり見せて、その後に芝居の背景を語るようなドキュメンタリータッチでも良かったように思います。
チャンツィイーのエピソードなどははっきり云って蛇足。チャンツィイーそのものはかなりチャーミングで良かっただけに、その扱いに不満が残る。このエピソードを生かすには、一切省略されて描かれていない夫人との馴れ初めとの対比が不可欠だったのではないでしょうか。

この映画を観終わって思い出すのは、間違いなくレスリー主演の「さらば、我が愛/覇王別姫」。こちらの方がもっと役者の内面に迫っていた。それは、レスリーとレオンライの役者としての違いなのではなく、お話しの進め方と演出の違いだ。もう一度「梅蘭芳」を観たいとは思わず「さらば、我が愛/覇王別姫」 を観たいと渇望してしまうのも道理でしょう。
そして、詳しくは知らないし理解できていないけど、この京劇そのものと日本の歌舞伎との類似点を思ってしまう。京劇も基本は男性の役者だけなのか。そしてその世界を「梨園」と表現するとは...。独特の化粧方法は、その隈取がまるで同じだし、その化粧を役者自ら施すところも同じ。面白かったのは、芝居で「見得を切る」ところ。そうそうこれは歌舞伎そっくり!
そう思うと、一度京劇の公演をじっくり拝見してしみたくなりますね。

青年時代の梅蘭芳を演じていた余少群がいい。凄くいい! 彼は完全にレオンライを喰っていた(というか、若さが違うのね、やっぱり)。ちびっと大袈裟だけど、ひょっとしたら余少群を観ることに、この映画の価値があるのかもしれません。

調べてみると、既に日本での公開も決まっているようです。
親切な日本語字幕付きで拝見すると、また評価は大きく変わるかもしれません。面白いと思うのか、興味深く拝見できるのか、それとも退屈と感じてしまうのか。どの評価を下すにしても、それは人それぞれで、なおかつ紙一重であるような気がします。

おしまい。