アドリブ・ナイト

ひっそりと、ハンヒョジュンがいい



  

とんぼ返りの東京出張も少なくなかったけれど、週末に東京へ出張なら基本は泊まり。
出張が決まればネットかぴあで上映作品をチェックして計画を練るのが、忙しい中のわずかな楽しみ。

今回、まず渋谷で韓国映画「アドリブ・ナイト」を拝見する。
シネカノンは神戸で入った会員証が、関東圏でも問題なく使えるのがお得で嬉しい。もっとも、神戸の会員システムが年末で終了するみたいなのが残念!(映画館そのものが撤退するのでは?と密かに危惧しているのだけど、大丈夫かな?)。予想はしていたものの、夜遅いとはいえ、片手で足りるほどの入りなのは寂しい...。

何が起こるのか、これからどうなるのかとドキドキしながら観てしまうのだけど、正直言って“肩透かし”。
それは「韓国のお話しならこんな程度で終わるはずがない」と勝手に期待感と妄想を膨らましてしまうけど、それが裏切られてしまうから。でも、面白くない話しなのかと言うと、決してそんなことはなくて、このお話しの設定や進行そのものは充分に練られていて、実は最初から設定そのものがかなり特異なお話しなんですね...。

ソウル。地下鉄駅前のコンビニの前で人待ち顔でたたずんでいる若い女性。彼女に親しげに声を掛ける二人組みの青年。知り合い? それともナンパしているのかと勘ぐるけど...。二人のうち一人の男が執拗に話しかける。
「昔、隣に住んでいたミョンウンだろ?」「う〜ん違う?」
適当にあしらっていた女性だだけれど、とうとう二人を振り切ってしまう。一旦は諦めかけた二人、諦め切れずもう一度彼女に話しかける。良くわからないけど、だんだんお話しがシリアスになってくる。
そして、人違いとかナンパなのではなく、これは多分“懇願”なのだと気付く。
どうして、彼女が見ず知らずの男たちと一緒にクルマに乗り込むのかわからないけれど、彼女はアルバイトのつもりとして割り切ったのか、とにかく彼女を載せたクルマは走り出す。二人組みの男は、クルマを運転している男に事情を説明し出す。
この繰り返される説明を聞きながら、彼らの行動は本当にナンパなのではなく、身代わりになってくれる女の子を捜していたのかなと、まだ確信は持てないもののそんな気がしてくる。
すなわち「田舎に病で余命いくばくも無いおじさんがいる。ずいぶん前に家出してしまったそのおじさんの娘・ミョンウンに似ているから、身代わりとして死水を取ってやって欲しい。おじさんはもう意識も戻らないから。手を握るだけでいいから。絶対にバレないから大丈夫だ」と言うのだ。
そしてとうとう、夜も遅くなって、彼らの乗ったクルマは田舎に到着する...。

このお話しのいい点は、たった一晩の出来事なのに、しっかりお話しが完結していること。そして、何よりもミョンウンに似ている女性を演じるハンヒョジュがかわいくていい(お芝居が上手いというわけではないけど)。
ただ、本当はもうひとヒネリは欲しかったかな。遺産を巡るドタバタは、あまりにも想定の範囲内すぎるしね。隣の女の子と、中学時代にミョンウンのBFだった男の子をもう少し生かした展開があっても良かったんじゃないかな。ポギョンの身の上話しも、途中から「きっとそうなんだろうなぁ」と思った通りだったし...。
良くない点は、辿り着く田舎の風景と住宅に配慮が足りないこと。最近は韓国の田舎はこうなのかもしれないけど、あれでは都会から少し離れた郊外の新興住宅地にしか見えない。これでは、今まで展開しこれから広がるお話しがブチ壊しになる。説得力もなくなるなぁ...。惜しい!

翌朝、ミョンウンはソウルに送り届けられて、(田舎に住む)母親に電話をする。
ポギョンはこの一晩で(生まれ)変ったんだなと思いました。

原作は、広島在住の作家平安寿子(たいら・あすこ)さんの書いた同名の短編小説。「素晴らしい一日」という本に収められているそうです(文春文庫・ISBN:9784167679316 関連記事が最近の中国新聞に掲載されていて知りました)。
必見ではないけれど、実はいいお話しなのかもしれません。原作も読んでみようかな。

あんにょん!