天然コケッコー

時間をかけてていねいに撮られた掌品



  

いつもはほとんどマンガやコミックを読むことはないのだけれど、この作品の原作が少女コミックであるということを知り、ストーリーの掴みにくさに思わず「読んでもいいかな」と思った。もちろん韓国映画「美女はつらいよ(邦題:カンナさん大丈夫です)」も読んでみたいとは思ったけど...。
で、知り合いを当たると「持ってますからお貸しします」という気持ちの良いお返事。実際に借りたものの、数ヶ月を経過しているにもかかわらず、1ページも読んでいないとは...(情けないことです)。

舞台はどこなのかな?
このひなびた雰囲気に、この言葉は、きっと島根県なんだろう。そうあたりをつけておく。島根も東西に広いけど、松江や雲より西に行くと、ほんま何にもないもんなぁ...。でも、その何にもないあたりに違いなさそう。神楽も出てくるしね。
そんな、何も無い田舎の集落。学校も中学と小学校が併設されていて、もちろん複式学級。そんな学校に、都会の臭いをプンプンとまとった男の子が転校してきたんだから、波立たないほうがおかしい。
調和して変化が起きない田舎。その中にエイリアンとも思える異文化をまとった闖入者がやって来てことによって巻き起こされる騒動(?)が描かれているのだけど、結論はない。実は、事件らしい事件すら起こらない。

この学校にもともといるメンバーもいいし、この地域に住んでいる人たちもいい。どこの誰だか皆が知っていて、その人が何をしていて、どんな人でどんな過去を持っているのかさえ誰もが知っている。都会で暮らす人から見ると、息が詰まりそうな環境だけど、生まれてからずっとここで暮らしている人にとって、それは当たり前で息苦しくとも何ともない。

主人公のそよ(夏帆、この子、素朴そうでかわいいね)と転校生の広海(岡田将生)の恋以前の淡い交流。学校での出来事と高校進学までストーリー、東京への驚くばかりの修学旅行(生徒より引率の先生の方が多くて、しかも楽しんでいるのは先生だったりする)、主人公の父親(佐藤浩市)と転校生の母親の昔話。島根の田舎を舞台にして移り変わる日本の田舎の美しい四季の風景。
観ていて、何だか心が洗われる。物語りを追いかけるよりも、うっとりしているうちに時間が経過していく。
ただ、こんな田舎でも情報だけはどんどん入って来て、素朴な子供たちだって、そのまま大きく成長するわけではないんだな。何だか、少しずつ真っ白な心が都会の垢に染められていく(もちろん、それは都会に暮らして汚れきった心しか持たないおっさんのボクから見てのことなんだけど)のは、淋しい。

主人公そよのお母さん役に夏川結衣。ボクのひいきなんだけど顔を見るのは久し振り。ちびっと歳を喰ったけど、お元気そうで安心しました。彼女は現代劇もいいけど、やっぱり時代劇が似合うような気がしますね。また、郵便局の局員として印象的だったのが廣末哲万(なんて読むのかな?)。この人今後も注目したいです。

時間が空いたときに、ほっとするためにDVDでご覧になるのもいいかもしれませんね。きっと心が安らぐことでしょう。時間をかけて、じっくりと撮られた作品です。

おしまい