待合室

あたたかさに触れたくて、雪に覆われた小繋を訪ねてみたくなる



  

いいお話しだとウワサは耳に届いていたし、落涙必至とも聞かされていた...。早く観に行かないと終わってしまう。
正月の三日の朝、モーニングショウ。久し振りのテアトル梅田は半分以上の席が埋まっていた。

このお話しの描き方は二通りあったと思う。
まず、「命のノート」に書かれていたエピソードを丹念に追い、その中でこのノートの存在感や和代の細やかな返事を紹介する方法。もう一つは、和代の生涯を紹介することによって、このノートの存在を浮かび上がらせる方法。
そして「待合室」という映画は、その折衷で描かれている。悪くはないけれど、どこか掘り下げが足りないように感じたのはボクだけだろうか? 
本当は自ら命を絶ってしまったという市川実和子の友人、後輩を連れて訪ねて来たものの離婚したことを告白できずに後で電話で話す長距離トラックの運転手、それぞれのエピソードをもう少し知りたかった...。
いや、実はこのノートによって最も救われたのは実は和代(富司純子)であったのか。

雪が降り積もり、前の国道にはビュンビュンとクルマが通り過ぎるのに、忘れ去られたように誰も来ない駅前の酒屋(雑貨店?)。ここに来るのはローカル線を使って通学する子供だけ。汽車を降り、家人の迎えが来るまでの束の間、子供はこの店先のストーブにあたって暖を取っている。
東北新幹線の開通で、本線とは名ばかりですっかりローカル線の趣になってしまった東北本線(今はいわて銀河鉄道)。小繋(こつなぎ)駅。もちろん各駅停車だけが停まる小さな駅。
ここもかつてはそれなりににぎやかな集落があり、人が集まっていた。そんな小さな駅の駅前にある酒屋に嫁いで来た和代(寺島しのぶ)。彼女の半生が鮮やかに描かれる。
過去と現代を行ったり来たりしながら、このノートと和代の関係もしっかりと頭の中に刻み込まれる。

少し物足りないと思うのは、いささか贅沢であったのかもしれない。
出てくる人が皆いい人で、嫌味がないお話しに仕上がっている。ただ、もう少し何かを変えるだけで(それが何かはボクもわからないけれど)もっと素晴らしいお話しになったような気がします。
富司純子と寺島しのぶの母娘共演が話題になっていましたが、実は和代のお母さんを演じた風見章子が一番良かったなぁ。

この冬は暖冬。小繋駅の雪はどうなんだろうか、そんなことがふと気になりました。
時間を作ってボクも訪ねてみたいな。

おしまい。