ピエロの赤い鼻

ボクのパパは世界一


  

安心して観ることが出来る佳作。
ただ、涙ボロボロかというと、案外そうでもない。もっと劇的な演出も可能だったように思うけれど、カラっとあっさり仕上がっている。追慕の念も大事だけど、今生きているその時間を大切にしようというメッセージなのか。
前作の「クリクリのいた夏」と良く似たキャスト。だから、年齢にはちょっと無理があるかな。回想のシーンも髪の毛があるから若いのではあるまいに...。まっ、それはそれで些細なこと。

教師の息子リュシアン。
自分の親から授業を受けている。教室でもどこでも人気者のパパは自慢だけど、一つだけ嫌なことがある。それは毎週パパがピエロ役で舞台に立つこと。どうして、もっとカッコいい役をしないのか。そうすれば、もっと尊敬されるパパになるのに...。
パパが道化師の役で演じている舞台を遠くから浮かない顔で眺めているリュシアンに、パパの古くからの友人アンドレ(アンドレ・デュソリエ)が話し掛ける「楽しそうじゃないね。パパが嫌なの?」「それじゃぁ、そろそろ君にもこの話しをしておいたほうが良さそうだ...」
そこで語られるお話しこそがこの映画のメインストーリーとなる。

人間は優しくて残酷。結構ツライ生き物なんだ。
女の子の前ではいいかっこうをしたがるけれど、なかなか勇気もない。でも、エイヤァってやるときはやってしまう。そしてその結果が、自分の命や誰かの命を脅かす結果になってしまうかもしれない。そんなこんながドタバタのうちに行われてしまうのが、戦争の持つ異常さであり狂気でもあるのでしょう。

フランスの田舎街。
街の有力者であるアンドレは帽子製造業のオーナー。友人のジャック(ジャック・ヴィユレ)は学校の教師。二人とも戦争に行くにはちょっと年を喰っている独身者。気立てのいい女の子(?)ルイーズを目当てに仕事帰りに街角のカフェへ日参している。それだけならのどかな毎日だけど、実はこの街はドイツ軍に占領されている。
若い連中は皆兵隊に取られてしまった。レジスタンスのニュースがイギリスからのラジオで報じられる。カフェでもそんなウワサで持ちきりだ。戦争に行かない二人はどこか肩身が狭い。そんな晩、陸橋の上から下の線路を通過するドイツ軍の物資を運ぶ貨車にワインの瓶を投げ入れ「これもレジスタンスだ!」と二人は喜ぶ。嬉しくて、ルイーズにも報告する。

「そうだ、ボクの家にはフランス軍が残していった、橋を爆破するための弾薬がそのまま残っている」

二人はルイーズに止められるのを振り切って、暗闇に紛れて線路のポイントを操作する小屋に爆薬を仕掛ける、その小屋にフランス人の係員がいることを知らずに...。

戦争という非常事態。そこには普通なら有り得ないような様々な出来事が起こる。
権威を傘に来て威張り散らす下級役人。どんな状況でも笑いとユーモア、人間性を失わない兵士。国というレベルで見れば立派な行為も、個人のレベルで見れば胸が張り裂けんばかりの悲しい出来事の積み重ね。
そんなことをあまり感傷的にならずに、淡々と語りかけてくれる。結果はどうなるかわからない。でも、笑いとユーモア、そして何よりも相手を人間として接する態度、そんなことが大切だとやんわりと教えてくれる。そして何よりも、いつも自分に対して、他人に対して「正直であれ」と。

何も道徳臭いお話しではないし、強制されることもない。
ただ、こんなお父さんを持った息子は幸せ者だ。「自分のパパは世界一だ」と胸を張っていいょ!

そんな世界一のパパ(アンドレ・デュソリエ)、この1月の末に鬼籍に入ってしまった。まだ50代前半。早すぎる、若すぎる!
合掌。

おしまい。