アンナとロッテ

悲劇は続く


  

続いてスバル座で「アンナとロッテ」。
ロッテと言ってもお菓子ではありません。第二次世界大戦とホロコーストに翻弄されたある双子の物語り。
タイトルからはほのぼのとした姉妹物かと思ってしまうけれど、これが全く違う。厳しく過酷なお話しが展開される。

ドイツのある都市で、父親と幼い双子の姉妹が楽しく暮らしていた。どうやらなかなか裕福な生活を営んでいる様子。が、ある日。父親が亡くなってしまい、姉妹は親戚に引き取られるのだが、一緒にではなく、別々の親戚の家に行くことになる。それも、父親の葬儀が終わるや否や、まるで二人の仲を引き裂くかのような別れ方で...。
アンナはドイツの田舎町へ。ここで農場を営む夫婦に、彼女は学校へも行かせてもらえず、単に農場での労働力としかみなされていなかった。病弱で結核を煩っていたロッテはオランダへ。裕福な養父母や義兄弟に囲まれ、庭には専用の療養用(日光浴用?)の部屋まで作ってもらい不自由の無い生活を送る。
アンナはロッテに手紙を書くことさえ許してもらえない、二言目には「あの子はもう死んでるよ、元気だったら向こうから手紙が来るよ」と言われてしまう。一方のロッテは何通も何通も手紙をしたためるが、養父母の手によって止められてしまい投函されることはなかった。
お互いの存在を片時も忘れることがなかった二人は音信不通のまま成長していく。

あることをきっかけに、牧師によって農場から救い出されたアンナは修道院に収容されるが、住み込みのメイドの仕事を得て自立する。そして、伯爵夫人に気に入られメイドとしての生活にも馴染んでいく。
一方、大学に通うロッテはユダヤ人の青年と出会い愛をはぐくみはじめる。そして、ふとしたことから、自分が書いたアンナに宛てた手紙の束を発見してしまう。お互いの養父母のために二人は出会うことすらままならなかったことを知る。

そして、二人は出会うのだけど、映画を観ているボクとしては、二人の境遇のあまりにも大きな違いに、出来ればこのまま会わないほうが良いのではないか、そんないらない心配さえしてしまう。
この二人が精神的に繋がっているのは認めるけれど、出会うことによってこの二人がより一層幸せになるのかというと疑問だ。アンナがロッテの家に身を寄せることになったら、アンナのプライドはずたずたになってしまうのではないか。
まぁ、しかしボクの心配などどこ吹く風で、二人は出会う。しかしその束の間の出会いさえ、歴史の大きなうねりの中ではちっぽけなもの。運命に翻弄される二人は再び離れ離れになってしまう。

この作品は原作の小説があり、ヨーロッパではベストセラーになったそうです。ただしフィクションなのかノンフィクションなのかはわかりません。もし、実体験に基づくものだとしたら、本当に「事実は小説よりも奇なり」を地で行くストーリー。
第二次世界大戦やホロコーストが残したもの、あるいは体験した人にとって、それらは、家族や兄弟、恋人というあらゆる人間関係だけではなく、人間という存在そのものをめちゃくちゃにしてしまう“狂気”であったのでしょう。

そして、その記憶は時間が経過することで、薄らいだり許したりするものではない。たとえ、それが双子の姉妹の間であってさえ...。
ラストの森の中での会話は、ある意味感動的でさえあるけれど、ボクは悲しくて仕方なかった。許すとか許さないとかという構図は、二人が意図したものではなく、二人とは全く関係がない部分で引き起こされたこと。そんなことを理由に姉妹がお互いにいがみあうなんて、悲しすぎる。二人はお互いに、純粋に自分自身の幸せを願い、行動しただけなのに...。

観ていても全く気が付かなかったけれど、若き日のロッテを演じている少しぽっちゃりした女優さん(テクラ・ルーテン)は、なんと映画「エブリバディ・フェイマス!」のマルヴァ役の女の子だそうです(名前は違うけど、改名したか、どっちかが芸名なのかな?)。びっくりしたなぁ、若い女性は数年で変身してしまうものなんですね。
ボクは若き日のアンナ役のナディア・ウール嬢もなかなか気に入りました。

まずまずのオススメですが、少し長尺なのと、観終わってあんまりハッピーな気分になれないのも確かです...。
関西では年が明けてからの公開のようですね。チャンスがあればどうぞ。

おしまい。