「さらば、我が愛/覇王別姫」

あぁ、レスリー


  

大阪九条にあるシネ・ヌーヴォは特長のある映画館ですね。今回は中国映画特集「中国映画の全貌2002-3」を上映中。ずっと観逃がしていたレスリー・チャン主演の「さらば、我が愛・覇王別姫」を観てきました。
この映画は文字の世界では随分前から知っていた。でも、これほど重い映画だとは知らなかったし、これほど「いい映画」だとも知らなかった。大袈裟に言えば「この映画を観ずして、香港・大陸映画を語るなかれ」だとも知らされたと言えよう。

例えは良くないが、この映画は「“七小福”と“活きる”と“胡同模様”を足して三で割ったような映画」(この例えでわかる人は「凄い!」です)。この映画の奥深さはそのまま中国の現代史の奥深さと通じるものがある。また「純粋さ」と「したたかさ」のぶつかり合いでもある。
ある意味、違う題材を扱ったとしても1930年から1980年までの中国を俯瞰すれば同じような映画が何本でも撮れるはずだ。それほどこの50年は中国にとって良くも悪しくも激動の時代だったんだなぁ。
京劇を扱っていると言う意味では“七小福”。したたかにこの50年を生きるという観点からは“活きる”。そして大変動の文化大革命を見ることでは“胡同模様”。

レスリーは幼くして京劇の劇団へ預けられる。その当時劇団へ入るのはすなわち「食い扶持を減らす」と同じ意味だ。やがて彼は女形として花開きスターへの階段を歩き始める。そして同じくして男優のトップスターも誕生する。この二人は同時に舞台に立ち北京の京劇界をリードして行く。
しかし、時代はこの二人に春を謳歌させてはくれない。日帝の大陸侵略、日中戦争、中華人民共和国の成立そして文革の嵐と時代は二人を翻弄していく。劇の中だけではなく小樓を愛したレスリー、そしてその時々の京劇のパトロンたち。そしてしたたかに時代を生き抜こうとする段小樓の妻(コンリー)。

こうして文字にしてしまえば何でもないあっさりしたお話しのようにも思えるが、重厚なこの時代とストーリーをコンパクトにまとめた演出の手腕はさすが。
そして、演じきったレスリーの凄みのある演技にはただただ感心するばかり。一方、レスリーに較べていささか「繊細さ」に欠ける段小樓を演じた張豐毅にはちょっと疑問が残る。そして、図太くしたたかな菊仙を演じるコンリーには大女優の貫禄を感じる。

あらゆる中国・香港映画を語る前にこの「さらば、我が愛・覇王別姫」は観ておくべき作品だと思います。
もう10年ほど前に北京で京劇の舞台を見るチャンスに恵まれているけど、この映画を観てからだったらもっと違ったやろなぁ...、残念。
少年時代のレスリーを演じた子役の妖艶さも必見です。

既に、ビデオ・DVD化されているので、今からでも遅くない。是非一度ご覧下さい。現代中国史のおさらいも出来ますよ。おすすめ!

おしまい。