「イチかバチか/上海新事情」

夢は身近にもあるんだなぁ


  

気が付くともう10月も終わり。ここ一週間ほどで一気に季節が進み、秋から冬への替わろうとしている。朝、なかなか布団から出られなくなってきましたね。秋は行事が目白押し。お陰でここ数週間は山歩きから遠ざかっている。いかんなぁ。

さて、そんな寒くなった夕方に出かけたのは天六にあるホクテンザ。ここでは「中国映画セレクション2002」を開催中。この日は「イチかバチか/上海新事情」と「プラットフォーム」の二本立て。まだ観ていなかった「イチかバチか/上海新事情」を観てきました。20名ほどの入りで、ホクテンザにしてはお客さんが多い方ですね。

主人公の中年男性・張宝忠がロッカーから私物をまとめてずた袋に入れ、永年勤めた国営の造船所を後にするシーンからこの物語りは始まる。

「下崗」。今の日本語に訳すと「リストラ」。それが、この映画のテーマ。
こう書くと何だかじめっとした暗い作品なのかと思ってしまいがちだけど、そんなことはない。からっと明るい、前向きなお話し。

張宝忠はいつも前向きだ。リストラにくじけることなく、どうにか資金を集めて内装やリフォームを請け負う会社を始める。
まずは人集め。自分と同じように下崗された旧知のメンバーを集める(この中の紅一点の経理を担当するおばさんはなかなかいい味出してます!)。ところが、素人集団の悲しさ、詐欺に引っかかりかけたりして出費がかさみ、もはや倒産寸前だ。事務所にも張宝忠の自宅にも借金取りが押し掛けて、帰るに帰れない。
でも、あわてふためいて資金繰りに奔走しないところがいい。メンバーを集めて鍋を囲みながら、わいわいがやがや反省会だ。こういう明るさやバイタリティがいいね。なんとか会社を建て直し、事務所も移転して事業再開。今度は軌道に乗りそうだ。儲けも出だした。

そんなある日、張宝忠はボーナス代わりに宝くじを買ってくる。
その宝くじが当たってしまうから大変だ。この宝くじの抽選はテレビで中継されている。番号を控えていた経理のおばちゃんが、自宅でこのテレビを見ながら興奮していく様子はおもしろい。また、抽選の仕方も工夫してあり、まず当選者が決まり、その一週間後に当選金額が決まる仕組みだ。
真夜中にも関わらず、全社員が集合して(と言っても6人しかいないけど)宴会だ!
結局、この張宝忠という男、経営能力があるのかどうかよくわからない。当選金の40万元(だいたい日本円で700万円ほど)は、大宴会や老人慰問などであらかた使い果たしてしまうのだ。でも、全然暗さがないのがいいね。

この映画を観ていて思うのは上海(中国?)庶民の底抜けの明るさとバイタリティ、そして「何とかなるさ」という前向きな姿勢だ。今後、こんな中国と経済的に戦争をして勝てるのか、日本は? ちょっと心配してしまう。それに社会(国家?)や組織、個人に対しての恨み言らしき発言が一切ないところもすごいね。

もう一つ特筆すべき点は、彼らの恐るべき食欲だ。この映画には食事のシーンがごっつい多い。それも吉野屋のカウンターで一人寂しく牛丼をかきこんでいるのではなく、必ず大人数で賑やかに楽しそうにテーブル(時にショーケース)を囲んでいる。日本ではいつから「個食」が主流になってしまったのかなぁ。
上海の人たちの活力源がこの食事であるとしたなら、日本はもう太刀打ちでけへんな、そんなことを思いました。

この映画に出てくる張宝忠を始めとする人たちは、全員が素人で本人が自分の役を演じているという。ストーリーもほぼ実話に沿っているそうです。
そうか「夢」は大リーグだけにあるのではなく、上海にもあったのか!

おしまい。